祭式の意義
建物の着工から竣工までには、地鎮祭や起工式にはじまり竣工・落成式にいたるまで様々な式典が行われます。
いずれの諸祭儀とも「工事の安全と建物の永遠堅固」や「家運・社運の発展・隆盛」を工事中の折々に神々に祈願し、天佑神助(てんゆうしんじょ)に感謝を捧げるものです。
さらに工事関係者の気分を一新し、勤労を感謝するとともに、いっそう仕事に誠実に励む心構えを持つ機会ともなる重要な意義を含むものです。
しかしながら今日、バブル崩壊後の経済情勢の悪化・デフレの進行を背景に、上棟式が全く省かれたり、神社への参拝で地鎮祭を済ます傾向が散見されます。とはいえ、その中でも地鎮祭は最も祭式の意義が重いと考えられており、他の祭儀と比べて省略されることの少ない式典です。
なお式典の形式には、神式・仏式・キリスト教式など、いろいろなものがありますが、我が国においては古来よりの慣習により神式によることが多いので、以下に述べることも神式による関西での一応の規準としてご理解ください。またお祀りするご祭神についても本来は信仰上の問題ですから、どの神様をお祀りしようとも自由ですが、本頁では、一般に適当とされるご祭神を記しております。
概 要
地鎮祭は「とこしずめのまつり」「ぢまつり」「ちんじさい」ともいいます。
工事着手前に、初めて敷地に手を付けることを古例に従って執り行うものです。
古来より建設敷地をお守りする神々(いわゆる鎮守の森の神様)に家屋を建てる赦しを求め、土地の霊を鎮め、穢れを浄め祓い、永遠の加護と工事の安全成就を祈願するものです。
神職による「清祓(きよはらい)/四方祓いの儀」は、この清浄を期する「祓い浄め」の象徴的儀礼です。建設の場となる土地が、この祭式によって浄化されます。
地鎮祭と同じ意味で「安全祈願祭」を行うことがありますが、「地鎮の儀」を省くのが通例です。また官公庁などの公共工事では、地鎮祭の呼称をもちいず「起工式」と名付けて式典のみを挙行し、神職による一連の神事を執り行いません。
ご祭神は、日本全国土を守護する國魂神(くにたまのかみ)である大地主大神(おおとこぬしのおほかみ)と、その地方の鎮守の産土大神(うぶすなのおほかみ)です。
大地主大神は、「上古伊勢神宮に坐す天照大神と共に宮中にて親祭され給ひしが、第十代 崇神天皇は御神威を畏み給ひ、同六年(二千数十年前)当神社の主神を市磯邑(いちしのむら)〔大和郷〕に遷御遊ばされ、皇女淳名城入姫(ぬなきいりひめ)を斎王として祀らしめ給う」と、今に至ります。
《 詳細は →大和神社(おおやまとじんじゃ/奈良県天理市)のホームページをご参照ください 》
祭式の流れについて、くだけた言い方をすれば、“神様をお迎えして酒肴でもてなし、そこでお願ごとをしてお見送りをする”という私達が家庭でお客様を招いた時と同じことをします。
なお祭式の進行は、本来建築主側で行うべきものですが、要領を得ず施工者へ委託する場合が多いので、まずは司会進行役を明確に決めて、神社・神職と施工会社との打合せを入念にされると良いでしょう。
式 次 第
※ 以下は、一般的な地鎮祭の流れを示した式次第です。祭主さまにより、文言は多少変わって参りますのでご了承下さい。
※ 閉式のあとに「神酒拝戴」の替わりに「直会(なおらい)」と書く場合もあり、神事のあとお供えした神饌・御神酒をお下げして参列者で戴き、祝宴を開くことがあります。
祭事の進行概略は以下の通りです。
- 手水(てみず/ちょうず)
神事会場に入る前に、手を洗い口をすすぎ、心身を浄めます。 - 修祓(しゅばつ)
神様をお招くにあたり、失礼のないように、諸々の穢れをお祓いします。 - 降神の儀(こうしんのぎ)
祭場に神様をお迎えする儀式です。 - 献饌(けんせん)
神饌(しんせん)を神様にお供えする儀式です。 - 祝詞奏上(のりとそうじょう)
斎主が祝詞を奏上し、参列者一同で祈願します。 - 清祓の儀(きよはらいのぎ)
敷地全体(四方)のお祓いをします。 - 地鎮の儀(じちんのぎ)
俗にスキ・クワ・カマの行事で盛砂を使って行われます。 - 玉串奉奠(たまぐしほうてん)
玉串を神様に奉り拝礼する儀式です。 - 撤饌(てっせん)
神饌を神様の前からお下げします。 - 昇神の儀(しょうしんのぎ)
お迎えした神様にお帰りいただく儀式です。 - 神酒拝戴(しんしゅはいたい)
神様にお供えしていた御神酒(おみき)をおさげして、参列者一同かわらけ(白い素焼きの小皿)にて頂戴します。
祭式の流れ
上述の順序を追って、それぞれの儀式の意義について、概略を説明いたします。諸祭儀の大部分は、斎主の執り行われることですが、儀式の順序や意義を理解しておくことは、多くの人にとって一生に一度あるかないかの地鎮祭を単なるイベントで終わらせず、日々「清き明き直き心」をもって神様のご加護をいただき、神様と共に生きるという謙虚さや感謝の気持ちの源泉ともなることでしょう。
① 手水 (てみず/ちょうず) ~みそぎ~
神社に参詣するとき、鳥居の外において、手水舎で手を洗い身を浄め、口をすすいで心を清めます。地鎮祭でもこれと同じく、手水は、式場の外で心身の穢れを除いた上で祭式に臨む大切な行事です。
本来の手水の行事は、白衣を身にまとい海や川に入ったり、井戸水を被ったりして、身の穢れを洗い清める禊ぎ(みそぎ)を象徴したものです。
神道は穢れを非常に忌み嫌い、清潔さや明るさ(きよきあかきこころ)を尊びます。世界でも稀れに見る日本人の潔癖性とでもいう「きれい好き」な民族性は、ここから来ていると推察されます。
一般的には参列者は手のみを洗い、口を濯ぐ所作は簡略化されることがあります。祭場の入口に手水役が二人たち、ひとりは木製の桶にいれた水を柄杓に汲んで、これを参列者の一人ひとりの両手に注ぎ清めます。もうひとりは、拭紙(半紙)を渡して、濡れた手を拭いて頂きます。
右から 手水桶(てみずおけ)・柄杓(ひしゃく)・零(こぼし/手水受)・拭紙(ぬぐいがみ)・拭紙入(ぬぐいがみいれ)
手水桶 … ポリバケツ等をさけて、出来るだけ儀式用の木製品をお使い下さい。
柄 杓 … 柄に半紙を巻き、麻紐もしくは紅白の水引を掛けてください。
零(こぼし/手水受) … 手を濯いだ水を受ける桶。水がはねないように、玉砂利の上に竹の葉や杉・檜の葉を敷きます。
拭 紙 … 手水のあと手を拭う白半紙。三方などの紙置き台に載せます。
拭紙入 … 使用済みの手拭き紙を入れる箱。
所作が行いやすいように、用具案(適当な高さの台)に配置します。
手水役より、柄杓にて水を掛けてもらいます。
正式な作法として、
① 左手を濯ぎます。
② 右手を濯ぎます。
③ 両手の手のひらに水を注ぎ、その水で口を濯ぎ、もう一度両手を水で濯ぎます。
ただし、清潔な水以外では口を濯ぐことはほとんどなく、このしきたりに倣って三回に分けて水を掛けることが一般的です。
他の手水役から、拭紙を受取り、水に濡れた手と口を拭きます。
使用済みの拭紙を紙入箱に入れ、祭場に入場します。
手水役の方々は、所作の時、「おめでとうございます」と一言添えられるとよろしいでしょう。
※ なお手水役の方は、事前に手水にてお浄め下さい。
手水の順序は、建築主→来賓→設計者→施工者→その他参列者→神職(斎主・祭員)となり、この順序でそれぞれの席へ着席ください。
手水の始まりに際してよく見られる光景として、参列者の方々がお互いに譲り合い、入口で滞ることがあります。円滑な進行のためには、司会者が参列者のお名前を順次お呼びすること、事前に手水の作法を神職にレクチャーしていただければ、参列者の方々はとまどうことがなく、親切でしょう。
② 修祓 (しゅばつ)
神事は開式の後、この 『修祓(しゅばつ)』 から始まります。これから祭壇に神々をお迎えするにあたり、斎主(さいしゅ)が祓詞(はらえことば)を奏上し、祓い清める儀式です。
これは手水よりも更にすすんで、心身共に一塵も止めず、祓い浄め、罪・穢れの一切を除き去って、神様に近づくために行われます。
一般的には、斎主お独りのご奉仕が多く、先ずは神職が神前に二拝し、祓詞(はらいことば)を『祓戸神(はらえどのおほかみ)』に申し上げます。
この時、司会者が 「皆様ご起立の上、ご低頭下さい」 と案内いたしますので、参列者の方々は、自席にてご起立の上、深くお辞儀いたします。これを『磬折/けいせつ』といい、「磬折」は、祓いを受けるとき、「祝詞奏上」の時の敬礼であり、40度ないし60度上体を曲げます。
その後、大幣(おおぬさ)で神籬(ひもろぎ)、神饌(しんせん)、玉串(たまぐし)その他の諸祭具を祓います。
次に斎主(さいしゅ)は、参列者を祓います。
参列者の皆様は一同起立、頭を下げて表敬します(磬折)。
※ 大幣 … おおぬさ 大麻とも書きます。榊(さかき)の枝に麻苧(あさお)と紙垂(しで)をつけたものと、祓串(へいぐし)に麻と紙垂を付けた二種類があります。
※ 神籬 … ひもろぎ ご祭神を迎え奉るため、神様の宿る神聖な木。祭壇の中央奥に配置されます。一般的には、榊の木に麻や紙垂をつけています。神籬を祀らない場合は、お社(やしろ)が用いられます。
祓いは全てのケガレを祓って一歩でも神様に近づき、清浄の心身となることを願う儀式であり、神道に於いては、人はみな独り残らず神様の御霊(みたま)を戴いた 『神の子』 であり、元来清らかなる存在とみています
( 『人はすなわち天下の神物なり、心神(わがたましい)を傷ましむるなかれ』 伊勢二所皇太神宮御鎮座伝記)。
この原点に戻すのが祓いですので、このため神式ではいかなる祭式にも必ず 『修祓』 が執り行われています。つまり、人間が神の子に立ち戻らないと、神様をお迎えすることができない、ということです。
『修祓』 は、私達が家庭や会社に大切なお客様をお迎えする時に、服装を整え部屋を掃除し整理することと同じと考えても差し支えないでしょう。
③ 降神之儀(こうしんのぎ)
『修祓』 によって祓い浄められた祭場に神々をお迎えする儀式です。
斎主は神籬の前に進んで二拝し、降神詞(神様をお迎えする祈願)を申し上げます。
「この地においでになります大神たちが、この神籬に天下ってくださいますよう恐れながら申し上げます」 という大意の言葉です。
この時に参列者の皆様は一同起立、頭を下げて、神々をお迎えします。
斎主は「オー」という発声(警蹕/けいひつ)を一度し、正面の神籬に神様をお迎えします。正式には、この間、楽が奏せられます。
※ 警蹕(けいひつ) … 「かしこまれ、しずまれ」という意味があるそうです。インドでは「オーム」といわれ宇宙が回転している厳かな聖なる音だともいわれ、「オー」という言霊にのって神様が降臨されると解説される方もございます。
いずれにせよ、畏まって謙虚に「お出ましいただき神様ありがとうございます」と感謝の気持ちでご低頭下さい。
④ 献饌(けんせん)
神饌(しんせん)を神様にお供えする儀式です。神饌は「御食/みけ」ともいい、神々のお召し上がり物の総称です。
「降神の儀」でお迎えした神々にお願い事をするにあたり、米や酒、塩をはじめ山海の珍味の御馳走でもてなす意味があります。
神様にお食事を差し上げておもてなしをして、そのお下がりを参列した人たちでいただく行為=「神人共食」(しんじんきょうしょく)が、日本の祭りの特徴であるとも言われています。
一般に生饌(生のままのもの)が用いられ、獣肉はさけます。神様にお供えするのですから、できるだけ姿・形が良く、清浄な物をご用意ください。
本来は式典の主催者であるお施主様が手配されるべきものですが、今日では神職に神饌をご依頼されるケースがほとんどです。
神饌の供え方は、一切を神職にお任せした方が良いでしょう。特に、魚・野菜などの場合は、神前に向かって右側と左側ではお供えの仕方が違いますし、三方への盛り方も三方の台数によっても異なります。
正式には、斎主が神饌を盛った三方を仮案(かりあん)から捧持し、神饌案(一般にいう祭壇、三段案)にお供えする行事ですが、現在では一般に省略されています。
あらかじめ神饌案にお供えしておき、式中に神職が水玉(みずたま)と瓶子(へいし/御神酒をいれている徳利)の蓋を取るだけにとどめています。
なお鮮魚はその鮮度を保つため、特に夏場は開式間際までクーラーボックスに入れて保冷しておくことがあります。
本来、献饌は重要な儀式ですので、笙・篳篥・龍笛をもって、楽を奏することが正式なありかたとされます。神社様によってはCDデッキを持参され、雅楽を奏されることがあります。
⑤ 祝詞奏上(のりとそうじょう)
祭式のうちで最も厳粛かつ、祭祀の最重要儀式です。
神威を尊び神様のご加護を願う赤心を披瀝するものであり、この間、ご参列の方々は全員深く頭を下げて、祝詞を奏上する斎主につれて、自らも願いを捧げるものです。
斎主は神前に進み、二拝して祝詞を奏上します。
司会者は、斎主が祝詞を広げる頃「一同起立」の案内を告げます。
【祝詞の大意】
この神籬にただいまお招きしました大地主大神・産土大神さまがたの御前に○○神社の○○が謹んで申し上げます。
この度、この土地に○○(建築主)が家を建設するにあたり、今日の良き日にしきたりに倣って、草を鎌で祓い、鋤・鍬で土地を敷き均して祓い清め、神々様の御前に美味しい食べ物やお酒等をお供えし、地鎮のお祭りをさせていただきます。
どうぞ、お聞き届けいただき、雨が降っても風が吹いても、いささかも動き傾くことがなく、また大地が揺れ水が溢れても、崩れたり破損したりすることなく、ますます堅固でよりいっそう栄えますよう、畏れながら申し上げます。
⑥ 清祓之儀(きよはらいのぎ)
ご降臨いただきました神様のお力で、敷地全体の災いを招く悪霊・邪霊の類を退散させ、また穢れを除く儀式です。
清祓は「四方祓いの儀(しほうはらいのぎ)」「切麻散米(きりぬささんまい)」ともいい、御神酒・米・塩・切木棉(または白紙、五色の切麻などをもちいることもあります)を斎主が東北隅→東南隅→西南隅→西北隅、そして中央と右回りの順に撒いてお祓いをいたします。
この場合、斎主の切麻散米に続いて補助役の神官が大幣で祓うこともあります。一般的に地鎮祭では施工会社の工事責任者(作業所所長など)が神職に随伴して、お祓いのお手伝いをしていただきます。
清祓の間、ご参列の皆様は神事会場内でお待ち戴きます。この時、運営係から次の「地鎮之儀」のために「スキ・クワ・カマ」の所作役の方に礼装用の白手袋を渡されることがございます。
白手袋は黒盆に載せておりますので、係の者よりお盆を差し出されましたら白手袋をお取り戴き、着用の上しばらくお待ち下さい。
⑦ 地鎮之儀(じちんのぎ)
斎鎌(いみかま)・斎鋤(いみすき)・斎鍬(いみくわ)を用いた3つの儀式が包含され、これらを代表して「地鎮之儀」と呼称します。俗に“スキ・クワ・カマ”の行事ともいい、神前に作った盛砂を使って行われます。所役は神前に背を向けないように定められた所作を行います。
一般に所作とともに 「エイ、エイ、エイ」 と発声します(地域によっては無言で行います)
一、苅初之儀(かりぞめのぎ)
● 所役 … 設計監理者ご代表
神職が斎鎌(いみかま)を取り、神前にて所役にお渡ししますので、所役は神前に進み一拝し、続いて神職に向かって一拝して、斎鎌を両手で受け取って下さい。
そして斎鎌を捧持し神前に向かって再度一拝し、盛砂のところに進みます。左足を一歩引き腰をかがめて、右手に斎鎌を持ち、左手で草を握ります。斎鎌を前方から手前に引くように、差し込まれた草を刈る所作を3度行います。
刈り取った草は盛砂の脇に置きます。終わって正中(祭壇の正面、真ん中)に戻り神前に一拝し、神職に斎鎌をお返しして、自席に戻ります。
草はその土地に自生している根付きの植物がよいとされ、出来れば稲穂のようにシュッとたったものが見栄えします。
しかし笹や榊を立てたり、イミテーションの草を挿すこともありますので、神職にご確認されると間違いないでしょう。
また、この苅初之儀は、設計・施工が同一の時、省略されることもあります。
一、穿初之儀(うがちぞめのぎ)
● 所役 … 建築主ご代表
神職が斎鋤(いみすき)を取り、神前にて所役にお渡ししますので、所役は神前に進み一拝し、続いてご神職に向かって一拝して、斎鋤を両手で受け取って下さい。
そして斎鋤を捧持し神神前に向かって一拝し、盛砂のところに進み、斎鋤を持って掘る所作を3度行います。終わって正中に戻り神前に一拝し、神職に斎鋤をお返しして、自席に戻ります。
一、鎮物埋納之儀(しずめものまいのうのぎ)
● 所役 … 斎主
神職が鎮物をあらかじめ盛り砂に掘ってある穴の中に埋納する儀式です。鎮物は神職が持参され、地鎮祭終了後、穴から取り出され、後日建物の中央の地中に埋められます。
このため鎮物は腐蝕しないものが一般的に選ばれ、秘伝とされ他人に知られないようになっておりますが、例えば、神札、通貨、人形や鏡・小刀のミニチュア、産土神社境内の小石や水晶など…が用いられているようです。
なおこの儀式では、穿初之儀で掘られた盛砂の中に仮埋めされることもあります。
一、鍬入之儀(くわいれのぎ)
● 所役 … 施工者ご代表
神職が斎鍬(いみくわ)を取り、神前にて所役にお渡ししますので、所役は神前に進み一拝し、続いてご神職様に向かって一拝して、斎鍬を両手で受け取って下さい。
そして斎鍬を捧持し神前に向かって一拝し、盛砂のところに進み、斎鍬を持って土をすくい鎮物の上にかけ、穴を埋める所作を3度行います。
終わって正中に戻り神前に一拝し、神職に斎鍬をお返しして、自席に戻ります。
⑧ 玉串奉奠(たまぐしほうてん)
玉串とは、榊の小枝に紙垂(しで)や木棉(ゆう)・麻苧(あさお)をつけて作られたもので、古くは、玉や糸、絹布、管玉などをつけたものが用いられ、神様に真心を伝える手向け物を意味しています。
玉串の玉は美称で、“神聖なる串”という意味です。
儀式では、司会者が玉串奉奠を行う旨を案内します。
先ず、ご斎主様が奉奠され、次にお施主様(建築主)→設計者→来賓→施工者の順に1名様ずつ奉ります。
なお、ご参列者は、それぞれの代表者が奉奠するときに、自席で起立して列拝します。
※ 司会者が「ご関係者の方々は自席にてご起立の上、ご列拝願います」と案内します。
※ 動画は
【奉奠の作法】
玉串の根本のほうを “本” といい、葉末のほうを “末” といいます。
拝礼者はまず斎主に一礼してから玉串を受け取ります。
この時、右手を “本” の上に添えて、左手で “末” を下から支えるような気持ちで受けます。
そして左手をやや高くして玉串を胸の高さまで持ち上げながら、正中に入ります。
一度止まって神前に軽く一礼し、左足から踏み出し玉串案の前に進み一拝します。
さらに左足から一歩前進して玉串案の前に立ちます。
右手の“本” を手前に引き寄せて玉串を時計回りにまわして、タテにします。
左手を下げて両手で “本” を持ち、祈りを込めます。(ここが大切です)
さらに時計回りにまわし、“本” を神前に向けます。
玉串を両手で下から添えるように持ち、両手を伸ばし、玉串案のうえに捧げます。
供え終わったら、右足から一歩下がり、そこで二拝、二拍、一拝します。
次に右足から三歩下がって、そこで神前に向かって軽く一礼します。
斎主に一礼し、自席に戻ります。
なお、神職から玉串を受け取るときなどの一礼を 「揖/ゆう」 といいます。玉串を奉奠するときは、動画のように上体を深く90度曲げて拝礼し、これを 「拝/はい」 といいます。
また「拍手/かしわで」は、胸の前に両手を合わせ、右手を少しすり下げます(つまり左手が上になるように合掌します)。ついで、静かに左右に肩幅ほど開いて打合せ、さらにもう一度打合せます。
二拍打ち終わったら、右手をすりあげて、元のように両手を合わせて、静かに手を降ろします。
⑨ 撤饌(てっせん)
『④献饌』 で供えられた神饌を取り下げる儀式です。
『④献饌』 の時と同じように、祭式中に神饌そのものを取り下げることはなく、神職が祭壇の水玉と瓶子(へいし)に蓋を戻すだけのことが多く、ご参列者の皆様は着席のままです。
⑩ 昇神之儀(しょうしんのぎ)
お迎えした神々を元の御座(みくら)へお帰りいただく儀式です。
斎主が神前に進み二拝した後、昇神詞を申し上げます。
「この神籬においでになる神々様、元の御座(みくら)にお帰りになりますよう畏れながら申し上げます」という意味です。
斎主は神々様のお帰りを促す祈念をして、再び「ウオォー」という警蹕(けいひつ)を発し、厳かに神々様をお送り致します。
ご参列者の皆様は、神職が正中に立たれた頃合いに、自席にてご起立します。
『昇神之儀』 が終わり、斎主が着座されたとき、司会者は祭式が終わった旨を告げ、閉式となります。
そして 『神酒拝戴』 もしくは 『直会/なおらい』 の案内をします。ただし、直会は行われない場合もあります。
⑪ 神酒拝戴(しんしゅはいたい)
閉式後、ご参列者の皆様が神饌のお下がりを頂戴することを 『直会/なおらい』 といい、特に神前に供えられた御神酒を“かわらけ”でいただくことを 『神酒拝戴/しんしゅはいたい』 といいます。
一般には神事会場の中で瓶子(へいし/御神酒のはいった白い土器)をお下げし、斎主の 「弥栄/いやさか」 のご発声で 『神酒拝戴』 を行うことが多く、別に直会会場を設けている場合は、そちらで執り行われることもあります。
ご出席者の人数が多い場合は、前列の方のみ斎主に神酒を注いでいただき、後列は事前に用意した神酒入りのカワラケを運営スタッフで配付することが一般的です。
尚、『神酒拝戴』 は、神事として必ず執り行われます。
直会とその規模・計画
『直会』 には、程度にいちじるしい差があり、つまみ程度で、お供えの御神酒をいただいてお開きにする簡単なケースから、二合瓶に折詰め(赤飯に鯛のお頭つき)、記念品として紅白の薯蕷饅頭をなどを参列者全員に配って祝宴をする正式なケース、あるいはパーティー形式でケータリング(仕出し屋)やコンパニオンを手配し盛大に華々しく催す場合もあります。
いずれにしても規模や形式など、お施主様(建築主)のご意向を踏まえ、施工会社様にて立案していただきます。
ただし個人住宅などでは、お施主様が直接計画・準備されることが多いものです。
■ 参 考
上述の解説にあたっては、
・『建築工事の祭式』 学芸出版社
・『すぐに役立つ建築の儀式と祭典』 鹿島出版会
・『建築式典の実際』 若林嘉津雄 著 学芸出版社
・ 神社本庁 ホームページ
を参考にさせていただきました。